8)メロディー

なんば花月と黒門市場の中間地点の古びたビルから新築の本社家屋への引越しの真っ最中だった。 椅子を抱えてオレンジ色に染まる飲み屋街を真昼たちは歩いていた。 「おやおや、キレイなお姉さんたち、民族の大移動かい?」 「生憎とゲルマン民族じゃないんですけどね~」 ほろ酔いの中年男性が話しかけてきたので真昼は上機嫌で応えた。 数週間前に面接を受けたのは白い壁が眩しすぎるくらいの新築のビル。 「…

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7)京都迷い人

最初の結婚は家族をつくるためだったと真昼は今なら理解できる。 真昼は暖かい家庭にずっと憧れていた。 それでも小学校の時の夢は「お嫁さん」ではなく、「デザイナー」だった。 祖母も清子からも「男はみんな狼だから気をつけなさい」と言われ続けてきたせいか、 京都でも早目に帰宅し、寮に入ってからは22時の門限があるので逆に有難かった。 結婚するまでは純潔でいたいという考えは古すぎるかもしれないが…

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6)デッサン

ダビデ像を見るたびに真昼はタツオのデッサンを想い出す。 初めてのデートの時にタツオが持ってきた数枚の写真と鉛筆で描いたダビデ像。 写真の中のタツオはいつも笑っていた。 西洋の騎士に扮した数十人の男子生徒の中でも目立つのですぐわかる。 教室で同級生と掃除用具で暴れていたり、 トーテムポールのように縦に数人の友人たちとおどけて写っていたのも、 真面目な授業中の姿もあった。笑っているタツオ…

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5)タツオ

「ちょっと話があるんだけど……」と話しかけられて真昼が振り向くと、 アルバイト仲間の男子学生のYが立っていた。 驚いたのは隣の区でも有名な進学高の霜降りの制服だった。 「あ、コレ?今日は補修があって……」 中3の時、担任教師から薦められた受験校よりも偏差値の高い進学校の制服。 「ホント、制服着るのってイヤなんだけどね」とYはズボンの裾をパンパンと叩く。 「あの、沢木さん」とYは直立不…

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4)青いランドセル

転校生のペールブルーのランドセルに真昼は心を奪われた。 男の子は黒、女の子は赤と決まっていたかのようにそれまでは目にしたこともない色。 横浜から来たその女の子は異常に色が白く吹き出物だらけの肌をしていた。 髪はショートで後ろを刈り上げ、スカートを履いていなければ男の子と間違えそうだった。 真昼はその子から話しかけられるたびにランドセルに興味がいった。 真昼は以前から不思議に思っていたの…

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3)お母さんと呼べない

「あなたなんかが受けるから私が落ちちゃったじゃない!」 凄い剣幕で真昼に喰ってかかったのはクラスで一番背が高い女子だった。 男子生徒には猫撫で声で話すくせに、女子には上から目線のただ体育だけが得意な女子だった。 真昼はこの頃、清子とこの女子生徒の中に女の嫌らしさを見ていた気がする。 こういう女だけにはなりたくないと真昼の中では黒い点がシミのように拡がった。 自分で望んだ事でもないのに数…

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2)父の涙

祖母が可哀そうにと言って清子の留守に真昼を抱きしめてくれたことがある。 中学の入学式が終わってずっと経った頃だった。 祖母の部屋は玄関横にあり、清子とは反対にいつもきれいに整頓されていた。 祖母は清子のことをいつも下作だ下作だと言っていた。 最初は意味がわからなかったのだが、どうも下品だということだったらしい。 清子は手先が器用で自分の洋服はもちろん真昼や妹の服もよく縫ってくれた。 …

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