4)青いランドセル

転校生のペールブルーのランドセルに真昼は心を奪われた。
男の子は黒、女の子は赤と決まっていたかのようにそれまでは目にしたこともない色。
横浜から来たその女の子は異常に色が白く吹き出物だらけの肌をしていた。
髪はショートで後ろを刈り上げ、スカートを履いていなければ男の子と間違えそうだった。
真昼はその子から話しかけられるたびにランドセルに興味がいった。
真昼は以前から不思議に思っていたのだ。
赤が苦手というよりもなぜ女の子は赤で男の子は黒なんだろう?と思っていたからだ。
綺麗な色はたくさんあるのになぜ2色なの?といつも疑問に思っていた。
人と同じ物を持ちたい人と、人と違う物を持ちたい人で分類すれば真昼は後者の方だった。
ペールブルーのコールテンパンツがお気に入りでよく履いていた真昼に、
転校生が最初に声をかけてきたのも色だった。
「その色、好き?」
「うん」
「私も……これ、パパにお願いして作ってもらったの」
「キレイな色だね」
「真昼ちゃんのサスペンダーもいいね」
転校生の父親は輸入関係の仕事をしているらしく、出入りの業者に一人娘のために頼んだそうだ。
二人はすぐに仲良くなったが、父親の仕事の都合でその子はまた転校していってしまった。
顔や首まで吹き出物が化膿し血がところどころ滲んでいたので、みんなは近寄らなかったが、
真昼はクラスメートにはないその子の大人びた利発さが好きだった。
CMや店頭に並ぶカラフルな色のランドセルたちを目にするたびにその子の事を思い出す。
白い肌でキューピー人形のような顔をした女の子。
吹き出物の塗布薬の独特な匂いがした女の子。
真昼に初めて都会を感じさせてくれた女の子。
ペールブルーのランドセルを背負った女の子。
真昼に明確な嗜好と値観を意識させ同じ考えを共有できたかもしれないと思えたのはこの転校生だった。
真昼の赤いランドセルは誰が買ってくれたのか今では思い出せない。
ただ、真昼の娘にランドセルを買ってくれたのが姑だったので、真昼のも祖母だったかもしれない。
真昼の娘は「赤いのがいい!」と当たり前のように叫んだ。
他の色もあるのに?と真昼は思ったが、娘は父親譲りで人と同じのが好きで安心するタイプだった。
赤しか選べなかった真昼は、スミレ色のデザインが美しいランドセルを眺めながら想像してみる。
仕事が忙しい娘夫婦からその連絡はまだないが、ビジョンで顔が視えたことがあった。
親子三人で写真館で撮ったような丸いスクリーン。
娘婿と娘に手を引かれながら砂浜をヨチヨチ歩く後姿。
親たちは黒いウエットスーツで片手にサーフボードを持っていた。
小さな後姿も黒いウエットスーツ。
砂浜に残る三人の足跡も鮮明なビジョンだった。
別な時期に違う場所でのビジョンだったが、真昼は今でもどこかで信じていることがある。
まだまだ先のことかもしれないけれど、あの光景が現実になることを……
結婚前の娘婿が視えた時も誰だか最初はわからなかったが、
髪型や服装をすぐにスケッチしていたので、あの時の人だとわかった。
数秒なので、某アーティストに似ていると思い、会ってみると違ったというようなこともある。
ただ、服装は合っていた。
最近、赤いランドセルを背負った異国の若い女性をWEBニュースで見たことがある。
日本では小学生が使うランドセルでも異国の女性が背負うととても素敵でオシャレだった。
近頃はランドセルを圧縮し小さくして雑貨にしてくれたり、
赤い皮を生かして財布・袋物や小物にしてくれる業者もあるらしい。
いつの間にか赤いランドセルのことは嫌な想い出とともに忘れて行った。
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